2018.04.07
最近の人工知能(AI)の進歩によって、車の自動運転が現実味を帯びてきています。
世界中各地でテスト走行が行われており、高速道路での追い抜きなど朝飯前。
狭いS字道路の通り抜けも難なくこなし、縦列駐車も一発で所定の位置に止めてしまいます。
車の自動運転が可能になると、人間が運転するよりも事故が格段に減る、と考えられています。
人工知能(AI)によって10年〜20年後に無くなっていくであろう職業にタクシー運転手が、登場するご時世になりました。
私たちの身体の中でも同じような『自動運転』が24時間行われています。
その主役を『自律神経』と呼びましょう。
私たちが長時間、夜間の高速道路を運転すると、当然のように疲れて注意力が散漫になります。
その時、疲れているのは身体の筋肉ではなく、この自律神経が疲れます。 運転そのもので、アクセルとハンドルを動かすのにさしたる筋力も使いませんから、筋肉の疲れがメインでないことは明白でしょう。
また、自律神経はマルチタスクで、同時に体中の多くの機能のバランスをとっています。 心拍数、呼吸、消化吸収、暑さ寒さへの対処等々、自律神経はいつも大忙しです。
S字カーブが連続するような山道を走行する車に揺られ、いつのまにか乗り物酔いを経験した人は少なくないことでしょう。
これも自律神経のなせる技です。 くねくねした道を曲がる時に、目のセンサーからは『これから右に曲がる』という情報がインプットされます。 一方、曲がる時に遠心力に身を任せていると、右に曲がる時に頭は左に傾いてしまいます。 すると頭を左に傾いたことは、耳石の動きで脳に情報が届きますが、それを『左に曲がる!』という情報として認識してしまいます。
目からは右に曲がる情報でありながら、耳の平衡感覚からは左に曲がる情報で、脳の中ではパニックがおきます。 重大な情報の錯綜です。 これを早急に解決しなければならない脳は、消化のバランスを取るために自律神経を使っている場合でないと、そちらを止めさせる為に胃の中のものを吐き出す反射を作り出します。 これが乗り物酔いでした。
ですから、乗り物酔いを防ぐには、一つには右に曲がる時には、頭を右に傾けることです。 左に曲がる時は、頭も遠心力に逆らって左に傾けます。 もう一つは、2つの相反する情報が混乱をもたらしたので、目からの情報をシャットオフする為に、目を閉じることも出来ます。
当番自身も最近、自律神経がマルチタスクで悲鳴をあげる体験がありました。
アーユルヴェーダのパンチャカルマ、と呼ばれる施術を受け始めて10日目のことでした。 その日は、朝一番で薬草の下剤を飲みました。 そしてその日の午後には、薬草を溶かし込んだ桶の中で、暑いお湯の半身浴をする施術を受けていました。
だんだん汗が額からこぼれてくるのですが、それがだんだんと冷や汗に変わっていくのです。 するといつの間にか、それがムカムカに変わり、強い吐き気と共に、身体の力がヘナヘナと抜けていき、倒れこむほどになってしまったのでした。
この時に起こっていたことは、朝の下剤がまだまだ腸に残っており、自律神経はその対処に大忙し。 そこへ持ってきて、暑いお湯の半身浴で体温調節の重要な任務が追加されてしまい、自律神経はオーバーキャパを宣言しました。
脳内の温度は上がるとたいへん危険なので、暑くなってきた時に体温を下げることは身体にとって優先課題です。 一方、食事のほうは一食分の栄養がなくてもどうということはないので、お昼ご飯の消化が不急の任務と判定されて、吐き気として胃の消化の仕事を無くし、かつ体温調節をやっていられないので、熱い風呂桶から出るように仕向けられました。
温泉などに行って、『湯あたり』とか『湯疲れ』というかたちでかえって元気を無くすことがあります。 せっかく温泉に来たのだから、と頑張って入浴に精を出してしまって起こる現象です。 これも、体温を上げる入浴を繰り返すことで、体温を必死に下げようとして自律神経が疲弊してしまった状態なのでしょうね。
かように『自律神経』をオーバーロードにしてしまうと、脳は緊急事態のパニックボタンを押してくることを実感しました。
そして自律神経が乱れた状態では、日中の活動を支える神経伝達物質を含めたホルモンの分泌にも狂いが生じますから、快適な身体の状態から益々離れていってしまいます。
乗り物酔いなどは極端な例ですが、日常生活を快適に過ごすには『自律神経』の活動、すなわち交感神経と副交感神経のバランスが重要なのですね。
寝付いて最初の熟睡である、いわゆるノンレム睡眠と言われる睡眠の質がとても重要だと言われます。 その状態でも私たちの自律神経は、心拍数、呼吸、体温調整などで働いています。 変動要因が少ないので、活発に動く必要はないものの、心臓が動き続けていることからも自明なように、自律神経は休むことなく働いています。
私たちが身体の”疲れ”と感じるものの正体が、筋肉でも内蔵でもなく、実は自律神経の疲れであるならば、どうすれば自律神経を休ませてあげられるか、回復させてあげられるか、ということになります。
ここで話が飛躍するようですが、『自律神経』を一番休ませるのは、寝ることではないのです。
それは『目覚めていて、自律神経を最も使わない状態』にしてあげることです。
寝ている時は、副交感神経が優位の状態です。 また、そうだからこそ寝付ける、ということでもあります。 夜中に何度も起きる人は、交感神経がたかぶってしまっていることが考えられます。
しかるに目覚めている時は、本来的に交感神経が優位になるモードの状態です。 その状態で外界からの五感へのインプットや思考を減らし、自律神経を極限まで使わない状態にしてあげた時、自律神経は最も深く休み、その機能を回復することが出来ます。
つまり交感神経優位から副交感神経優位への転換をしてあげた時に、自律神経の最大の休息が生じます。 そして交感神経優位な時は、目覚めている時です。 ここに『目覚めている時に、自律神経を最も使わない状態』にする価値があります。
その状態を意図的に作ってあげるのが、静坐であり、瞑想することになります。
ですから、ダラダラと長く寝る時間があれば、そのほんの一部を起きている時の静坐や瞑想の時間に振り向けてあげたほうが、どれほど身体は喜ぶことか。
そうやって、自律神経を良い状態にメンテできれば、私たちの日々の『自動運転』は、最もスムーズな走行を可能にするはずです。
私たちは外出する際に、身なりを整えます。 もちろん、それは大事なことですが、もっと大事なのは自律神経を整えてから外出することではないでしょうか。
©天空庵